そろばんおじさんの毎日パチパチ

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東北地方で細々と珠算教室を営むおじさんの綴るあれこれブログです。

ある事情を抱えた生徒への対応に試行錯誤したお話

 先日、とある生徒の保護者から通学に関するご相談のお電話を頂きました。その生徒さんは、とある発達障害を抱えており、一人での通学や留守番が難しいという事で、児童クラブから私の教室に通って頂いている背景があります。

 今回はその相談内容にはあまり関係がないのですが、その子のお母さまとお話させていただいたことや、その生徒を指導するにあたってうまくいったこと・失敗したことなどを基に、少し私の考え方を記事にさせて頂こうと思います。

 この記事を読んでくださった方の中に、もしかしたら同じような問題に直面している方もいらっしゃるかもしれません。そういった方に、何か一つでも参考になることを残せれば幸いです。

 

 

 

その生徒について

 個人情報などの観点もありますので、具体的な情報は伏せますが、その生徒さんは初めて教室に来た時から他のお子さんとは少々違うように感じていました。

 

 落ち着きがない。返事がない。ちょっとしたことで気が逸れてしまう。

 

 正直なところ、第一印象から不安がありました。

 どうにか体験入学を終え、次の授業日には入会して頂き、晴れて正式に生徒となりましたが、初めに感じた不安、違和感は的中します。

 私がなにか指示をしても、まずはその時にしていることがひと段落しない限りは行動しない。私が他の生徒へ指導している時に口を挟む。そういったことが徐々に出てきたのです。

 最初のうちは、他の生徒さんにするときと同じように毎度注意し、それでも直らなければ、少しずつ語気を強めるようにして注意していましたが、今考えればこれはその生徒に関しては完全に裏目に出ていたことが、のちに発覚します。

 

発覚

 ある日の昼、その生徒の保護者様から電話がかかってきました。

 どうやら、その疑いがあるとの事で、詳細に検査をする、という事になり、仮にそういった発達障害を抱えていたとしたら、そろばんを続けることは可能か、というご相談でした。

 その時、私は正直悩みました。そういったことへの確かな知識もなく、適切な対応を執ることができるかの自信もありません。他の生徒への影響などを考えた時に、もしかしたらこれは断ったほうがよいのかもしれない。そんな考えも、正直ありました。

 ですが、私はこの仕事を始める際に考えていたことを思い出しました。

「珠算教育を通じて、地域社会に貢献する」

 この時、これを思い出さなければ、この生徒を受け入れるという選択をしていなかったかもしれません。

 時間の都合もあり、そのお電話の際にははっきりと返事をすることはできませんでしたが、その日の夜にこちらから受け入れのお電話をさせていただいたことを覚えています。

 

勉強

 受け入れる選択をした以上、最低限の知識を身に着ける必要があります。

 その子のお母さまから伺った症状について調べてみようと思い、書店で関連書籍を探してみると、本当に様々なパターンがあるという事を知りました。

 発達障害の他にも、学習障害というジャンルがあることを、私はその時初めて知りました。そのくらい、本当に自分には何の知識も無いのだという現実を改めて実感しました。

 さて実際にそういった書籍やインターネット等で情報を集め、あくまで独学ではありますが勉強してみると、あることに気が付きます。その生徒以外にも、あてはまる特徴を持つ生徒が思ったよりもたくさんいるという事。

 

 集中が続かない。一つ事を継続できず、気分で様々なことに手をつけてしまう。話を最後まで聞けない。

 

 他にも多種多様な特徴がそこには記されており、こと低学年の生徒に関しては、一つ一つに焦点を絞ればそれらの特徴に一つも該当しない生徒はほぼいませんでした。 

 そして、その中「これらに当てはまったからと言って、必ずしもそういった診断が出るとは限らない」という記述もありました。

 ではその決定的な違いとはなにかといえば、はっきり言って納得のいく明確な線引きは無いに等しい、というのが私の調べた中での結論でした。もしかすると、程度の問題であるというのが最も正しいのかもしれません。

 

実践

 とはいえ、その生徒に関していえば、他の生徒達と同じ対応をしてもうまくいかないことはそれまでの様子ではっきりしています。

 ではどのようにすれば円滑に指導を進めることができるのか。もちろん、その中で他の生徒達から見て不公平や贔屓に見えるような対応をするわけにはいきません。一人の為に他の全員との信頼関係を崩してしまっては本末転倒です。

 まず調べた中で最も配慮すべきことは、どうやら「言葉がけ」であるという事でした。

 小さいことでも褒める。否定するのではなく、これからすることに興味を持たせる。そのときにその子がしていることに、こちらが興味を示す。

 基本的にはこういった態度を入り口に、徐々にこちらの指示をスモールステップで伝えていく。

 そしてその時に、決して焦ってはいけないとのこと。

 

 しかしこの、スモールステップというのがなかなか難しいものです。

「準備をしましょう」

 という指示を授業開始時に生徒に伝えた場合、大抵の生徒はカバンから必要な道具を取り出し、最初に何をするのかの指示に備えます。

 ですが、この生徒はこの言葉だけでは動きません。

 はじめのうちは、無視しているのか遊びに夢中なのだと考え、強い言葉で叱責していましたが、実際はそうではなく、「準備」というものが具体的にどういった行動を指すのかがわかっておらず、理解できていないからいつまでも遊びを続ける。というのがその生徒の精神的な動きだったようです。

 これを解消するためには、単純にその生徒に理解できる単位での指示を与えればよいという事に気が付いてからは、びっくりするほどスムーズに導入に移ることができました。

 カバンを開ける。必要な道具を取り出す。カバンを仕舞う。鉛筆を取り出す。プリントを一枚とる。名前を書く。

 一つ一つの指示をこなしたことを確認し、次の指示を出す。こういった形で準備を整えていけば、しっかりと従ってくれることがわかったのです。

 そして、徐々に導入がうまくいくようになってから判明したのが、その生徒はスイッチが入ってしまえば物事の覚えはよく、さらに一度集中してしまえばいつまでも続けることができるという特徴を持っているという事です。

 なかなか毎回スイッチを入れることは難しいのですが、そういった長所があるおかげで、進み方は違うものの他の生徒と比較しても学習スピードのはっきりとした差が生まれることはありませんでした。こればかりは幸運だと思っています。

 

まとめ

 今回書いたことは、あくまでも特定の生徒一人に関しての例であり、この方法が必ずしも通用するという事ではないと考えています。さらに言えば、その生徒に限ってもいまだに予想外の行動に出られてしまうと、とっさの対応を誤ってしまい、そのあとはこちらの話を一切聞いてくれないという事も時にあります。

 先ほども書いたように、疑わしい特徴を持つ生徒がいることも事実であり、おそらくはこの先、そういった生徒が全くいなくなるという事も無いのでしょう。

 そして、調べてみるといまだに様々な新しい症状の報告などもあり、小学生の生徒を預かる身としては、これからもよりしっかりと勉強していかなければいけない分野なのではないかと感じています。

 私が子供のころは、あまりこの「発達障害」「学習障害」というものへの理解が広まっておらず、ほぼ十把一絡げに扱われていたようにも思いますが、現代では様々な症状への理解が広まり、その一人一人への適切な対応や対処が求められる時代になっていくでしょう。

 これに限った話ではないですが、正しい知識や見識を持ち、常に更新していく姿勢を忘れてはならないのだとして、今回は締めさせて頂きます。

 御読了、ありがとうございました。